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自称・マルチクリエイター おおぬきたつや のブログです♪

『メタル・キッズ・アーミー』 ‐第1話‐ ♯5 

        ‐Metal×Kids×Army‐ 
      『メタル・キッズ・アーミー』 

  ‐第1話‐  ♯5 

 

 ピーン…!

 到着を知らせる電子音が鳴るよりも早くにふたりともが外部へと飛び出していた。
 かくして、最終目的地へと到着――。

「ついた!」


「とうちゃーく!!」


 テンションマックスでご機嫌な洋太がいち早く飛び出していく。

 その後を急がず焦らずの大地がゆっくりとした足取りで追いかける。
 それで相棒が姿を消した角をみずからも左に折れると、そのすぐ先で洋太が誰かと向かい合っているのを見かけることとなる。
 相手は若い女性で、なおかつこのふたりが良く見知った間柄(あいだがら)であった。

「あ、なつかおねーちゃん!」


 自分たちよりはずっと年上だが、まだ若い二十歳そこそこだろう娘の名をやや見上げながらに大地が呼びかける。

 これにあちらも笑顔で応えてくれた。

「あら、大ちゃんも。ふたりとも今日は早いのね。そっか、学校が早く終わったんだ?」


 明るい笑顔で気さくな態度のお姉さんは、目の前に並んだふたりを見下ろしてはちょっとだけ表情を苦めもしながらに言った。


「ああ、でもね、あんまりうちの父さんにばかり付き合ってくれなくともいいのよ? だって学校、もうそれなりに忙しいんでしょう? また新しいお友達もできることだろうし、それに裏では何を考えてるんだか、わかったものじゃないんだから、あのひとは…!」

 

 


 やや困ったような顔つきで小学生たちに対応する彼女は、大地の祖父にしてこの研究所の一切を取り仕切る統括責任者である、四季総合科学研究所・所長、四季 節夫(しき ふしお)博士の末の娘で、言うなれば大地の叔母に当たった。
 ただし、見た目の通りにまだ若く、年齢は二十歳になったばかりである。
 名を、夏香(なつか)といった。
 ふたりの小学生たちばかりでなし、誰からも好かれる明朗快活な性格の持ち主で、頭脳明晰(めいせき)、均整の取れたスマートな身体に目鼻立ちの整った顔で、ショートにカットした髪が活発なイメージをより明るく際立たせた。
 その名の通り、雲一つとなくからりと晴れ上がった夏の青空のようにはハキハキとした、もはや非の打ち所のない優しくきれいなお姉ちゃんだ。
 その夏香の言葉に、ぶるんぶるんと首を左右へと振りながら、元気者の洋太がとびきり元気に答えた。

「ううんっ、へーき! だってあのおじーちゃんとってもたのしいもん!! ねー、大ちゃん?」


 言葉のとおりにとびきりの笑顔をとなりのともだち、大地へと向ける。

 それに当の大地はちょっとだけみずからの首を傾げさせては、やや思案顔で天井を見上げたりする。
 それでもやがてははっきりと笑顔でうなずいた。

「うーん、まあよくわかんないけど…イヤじゃないから!」


 そんな屈託もなくしたふたりのお子様たちに、ここではふたりの保護者の役も果たすお姉ちゃんの夏香はまた苦笑を漏らす。


「そう。まあ、それだったらいいのかしら? でもあまり無理はしないようにね? やっぱり、ちょっとは心配だから…そう、今日は特に、ね…!」


「うん!」


 笑顔の大地が首を大きく縦に振って答えるが、その隣りの洋太はもうスタスタとその場から離脱していた。のんびり屋の大地と違って、こちらはあんまり長いことは、ひとつのところにじっとはしてはいられぬ性分なのだ。

 さらに先へと廊下を進んで、やがては何やら広いフロアにまで出る彼だ。
 そこは見渡す限りがずっと奥まで、多種多様、複雑怪奇にして大小さまざまな機器で埋め尽くされた区画へとごく当たり前に入り込む。
  およそ小学生などにはふさわしくもないメカニカルな雰囲気のここは、俗に『C・R』、コントロール・ルームの名称で呼ばれるこの最上階でも最大規模のフロ アだ。その名のとおりで大型管制・統御室なのだが、現時点ではまだこれと言った運用はされていない。人影もまばらで、今のところはごく一部が試験的に稼働 しているのみだった。
 つまりはこの『第二特殊研究棟』、ひと呼んで『マル(M・A・L=Metal・Armor・Laboratory)』自体がまだ新しい施設なのであり、このコントロール・ルーム全体が本格的に動き出すのはもう少し先のこととなる予定だという。
 そしてその手前側、各種無数のモニターと計器らしきで埋め尽くされた大型の操作盤、子供からすればそれこそ機械の壁と向き合っているあるひとりの若い男へと、洋太は迷わずまっすぐに走り寄る。

「はるしにいちゃんっ!」

            
                     ※次回に続く…!

クロフク *プレリュード* 第三話(後半)

     クロフク

 *プレリュード*

   第三話(後半)

 

 

 

「3Pというヤツか? ますますわからないな…」

「オレもわかんねえって! つーか、さんぴーってなんだ??」

「さっ、さんっ、ぴぃっ? なっ、なっ、なっ…!? あとそれにっ、せ、せせっ、セックス、ですって? クロ、こいつら!!」

「ああ、ひどいな? 完全に中2男子の会話だ! もとい、あまり気にするな。ただの戯言(ざれごと)だ…! あのシシドというやつは性格的に多少難ありで、それでもクロフクとしての能力は高い。それよりも少々、厄介だな?」

 華奢な肩をわなわなと身震いさせて声まで上ずらせる、もはやかなり取り乱したさまのルナである。
 おなじく無表情を装っていながら内心の呆れみたいなものが顔の端々(はしばし)にうかがえるクロは、また別の意味合いの困惑もそこににじませるのだった。
 片やそのあたりを敏感に感じ取る女の子だ。
 逆立てた柳眉片方だけいぶかしげにひそませたりもする。

「…?」

「そう、あいつは見ての通りの極端な自信家で、不用心なだけにここにはてっきり単身(ピン)で来るものとばかり思っていたのだが、よもやコンビでやって来 るとは…! しかもあの後ろのヤツも、地味で目立たないキャラながらこの物腰からして相当に熟練していると見ていいだろう…!!」

 どでかい毛虫じみた黒くて太い眉が左右とも歪(いびつ)に固まっているのは、何も目の前のさながらおバカ中学生コンビのふざけたありさまに苦虫噛みつぶしてるというだけではないものらしい。
 サングラスで目元を隠しているが、この目線がかなりシビアであることを察知するルナだった。
 目の前の黒服どもは首元のネクタイ取ったらただの中学生に転落必至だが、でぶった体格で黒のフォーマルをばっちりと着こなすこちらのクロフクはぬかりなくした真顔でさらに続ける。
 
「加えてあれとシシドとの相性は抜群にいいはずだ。このコンビでの仕事の成功率は9割を切らないはずだからな? ヘタなトリオ(三人編成)よりよっぽど上 手(うわて)だぞ。何より被弾(負傷)率が極端に低い! さては性格的に先走りしやすい相棒をうまく抑えるブレーキ役を果たしているのか、はたまた特異な 才能を持ち合わせているのか…あいにく地味すぎて名前がわからないのだが…手強いな!」

 みずからの分析にいかにも納得とばかりにひとりでうんうんうなずくサングラスのデブに、ついには眉どころか左右のお下げ髪まで逆立てて悲鳴を発するルナは言ってることがもうかなりのクレーマーじみてた。
 対するクロは太い眉をまたかすかにひそめる。 

「な、なにが手強いってのよ! ただのどスケベ赤毛ザルとむっつり白ブタ野郎じゃない!? あんなの生理的に受け付けないわっ、どうにかして!!」

「赤毛ザルと白ブタ…! いや、ちょっと露骨に過ぎるような? それだとこの俺は黒ブタになるのか、クロだけに?? もとよりあまり相手を挑発しないほう がいい、俺個人としてもさして笑えた立場でないわけではあり…。後ろのヤツの名前が不明な都合、確かに仮称は必要なわけだが、ならばここはひとつ、食べ物 (フード)で例えるのが妥当ではないか? キムチとスルメ、およそこのくらいが順当なラインだろう…!!」

「なんだっていいわよ! キムチだろうがスルメだろうが、キャビアだろうがトリュフだろうが、タバスコだろうがラードだろうがね!!」 

「む、キャビアは、俺だろう? 海のダイヤは黒いのだから! そこはせいぜいフォアグラだろうが、高級食材には違いないな…? ふむ、さすがいいとこのお嬢さまは普段からいいものを食っている! 赤毛ザルにはもったいないくらいだ」

「別に毎日じゃありゃしないわ! というかどうでもいいのよっ、そのたとえは!! わたしが言ってるのはこの無礼などスケベどもをどうにかしろってこと で、不愉快で仕方が無いってコトよ! ほんとに、さっきはあんたにそのサングラス取れとか言っておいてなんだけど、今はむしろちゃんとかけてほしいわよ ね?」

 キッといまいましげな目線で見上げるに、この視線に感づいたらしい当の赤毛ザル、もといキムチ(?)のほうが、はぁ、なんですかぁっ? とばかりのそれはいかにもわざとらしげなニヤけた視線を投げ返してきた。
 無表情のスルメのほうは気にしたふうもなく、目の前の相棒が今だにとてつもなくひわいなジェスチャーを学生乗りでかましてるこの手もとをのんびりと眺め ている。不気味なくらいにリラックスしたさまが確かにただならぬ様相だが、今のルナにしてみたら気分を逆(さか)なでするだけの厚かましい態度だ。
 だが若い女の子がひとりこんなに逆上したところで、調子に乗った悪ガキを増長させるだけだったか。
 食ってかかるルナを見下ろす視線は余裕たっぷりで冷ややかそのものだ。

「このキムチ! じゃなくて、シシド、だったっけ? あんたさっきからいい加減にしなさいよ!! でないとこの依頼者権限において即刻リコールしてやるか らね? いいこと、あんたたちに提示された額は相当なもののはずだから、本部からすぐに呼び出しくらうわよっ、そのまま処分(セール)されたいの!?」

「はっ、やれやれ、ちびっこいクセにおっかねえ嬢ちゃんだな? 弱い犬ほどキャンキャン吠えるとは言うが、そんなカッカすんなよ、シワが増えるぜ? そっ ちこそ勝手にふたりで盛り上がって、ひとを置いてけぼりにしやがって、ひでえよな? あと赤毛のサルとかキムチとかって、なんのこと??」

「その口ぶりだとおおかた理解しているのだろう? それに勝手に盛り上がっていたのはむしろそっちのはずだ…あと職務規程、俺たちクロフクに必須のサングラスはどうした? これも立派な減点対象だが??」


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 真顔の同業者から冷静にたしなめられても、それまでのひわいな手つきをどちらもやれやれと大げさにバンザイして肩をすくめる赤毛のクロフクは、日焼けしたこの素顔にこれでもかと不敵な笑みを浮かべる。
 挑戦的、ないし挑発的としか言いようがないなめた口ぶりだった。

「はっ、さすがに生まれついての優等生のエリートさまは言うことがうざいよな? おまえ今からでも教官が務まるんじゃねえの? あの現場からまんまとリタ イアしたくそジジイどもに混じってな! 職務にはこれから入るんじゃねぇか…つってもこのオレはんなジャマなもんは付けない主義なんだよっ…」

「主義…そいつは初耳だな? でも確かに屋内で人気がないここではわざわざ付ける意味合いが乏しいんじゃないのかな…! ならおれももう付けないことにするよ。そっちの真面目なエリートさんには申し訳ないけど…」

「む、その口ぶりではこの俺が融通の利かないバカみたいに聞こえるな? はなはだ不本意だが、おまえが言っていることは一理あることだけは認めてやろう。 相棒の単細胞と違って回りに気を向けるクレバーさがある…地味なくせに、さては相当な修羅場をくぐっているな? どこにもスキが見当たらない、まるで背中 に目があるかにしたカンペキな立ち位置と立ち姿だ…!」

「背中? おほめにあずかって光栄だが、あんたほどでもありはしないよ…あんたはそんなスキだらけなようでいて、その実、誘っているんだろう…?」

 顔つきも態度もハデで大げさな相棒とは打って変わった落ち着いた口調と物腰のスルメは、この内心の考えをまるで悟らせもしない。
 そのクセ何かしら含むようなところがある物言いには、対するキャビアがかすかにその真顔の口もとをほころばせるのだった。
 さながら言葉がなくとも通じるかにした玄人(プロ)と玄人(プロ)の立ち会いだが、まるでそんなことを気にもかけない陽気なおサルさんが横からキャッキャと上機嫌のしたり顔でぬかしてくれたりもする。

「おうよ! コイツはこのオレの一番のダチで、無口だけどスッゲー気がきくし、実はなんでもこなせるマジですごいヤツなんだぜっ! ま、見てのとおりでオ レとおんなじタイプなんだが、このサノはカンとキレが抜群の隠れた逸材だぜ! このオレと合わせたらまさしく鬼に金棒ってもんよ!!」

「はは、なんだか照れるな…! ほかのヤツらから言わせればただの器用貧乏だなんてことになってしまうんだが…まあ、地味なのは確かかな? これと誇れる ような戦績(スコア)がないし、いつもシシドの影に隠れて任務をこなしてるだけで…エリートの指揮官クラスには名前どころかこの顔も覚えてもらえないし な…」

「おいおい、そんな謙遜すんなよ! そっちのすかしたエリートは知らなくたって、このオレはとっくの昔に認めてるぜ! おまえは正真正銘、どこに出しても誰にも引けを取らないマジモンのクロフクよ!!」

「…いや、この俺もお前のことはかねてよりチェックはしていたぞ? そこのやかましくて扱いにくい問題児、シシドとのコンビ仲はなかなかのものだからな? そうだ、サノ、おまえには今もただならぬものを感じている…!」


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「ケッ、今さらそんなゴマすったところでこのサノはてめーなんかにゃやらねーぞ! なんたってコイツはこのオレさまの唯一無二の相棒(マブダチ)なんだからな? そうともオレたちゃ無敵のクロフクコンビよ!!」

「…! ああ、実際、シシドのサポートをこなせるのはたぶんおれしかいないな…でもほんとに光栄だよ、このおれのことを知っててもらえたとは、まさかあの泣く子も黙るビッグスリーの一角が…!」

「びっぐすりー? へっ…クロ、あんたさっきあの無表情のヤツは地味だから名前がさっぱりわからないって…!」

「うむ! もちろんだ。別にコマンダー(指揮官)になど興味はないが、出来るヤツのことはしっかりと把握している。すべからく、これぞ仕事を円滑にこなす上で必須の情報だからな!」

「あっ、あんたもたいがいろくでもないわね! ああ、もういいわっ、だったらあんたち、これからどうするの? なんだか雰囲気落ち着いてきたから、このままめでたく仲間入り…ってことでいいわけ??」

「…………」

 もはや投げやりに言ってやるに、するとそれきり妙な沈黙が場を満たしてしまい、ルナは顔つきがこれまた微妙になる。

「ちょっと…!」

 いやな気配…!

 なんだか背中のあたりがむずむずするが、これがいわゆる嵐の前の静けさであったことをこの直後になって思い知るのだった。
 キムチだか赤毛サルだかが不敵な笑みを浮かべておもむろに切り出す。

「はっ、仲間ってのは、ちょい語弊があるよな? 確かに同業者ではあるわけだが…! ま、ようはこのミッションをクリアすればいいわけだろ? 聞くにはい かにもちょろい儲け話だから、点数稼ぎもかねてわざわざダチ誘ってこんな片田舎まで馳せ参じてやったんだ…依頼の中身にゃいけ好かないエリートさまと仲良 くしろとは書いてなかったしな?」

「ふむ、いけ好かないエリート、とはこの俺のことで相違ないのか? ただちに異議を申し立ててやりたいところだが、あえて黙っておこう。今はこの任務のほうが優先される…!」

「さすがはエリート! おかげさんではなしが早いやな、だったらオレも遠慮無く答えてやるよ? このオレたちの答えはもちろん、こっちだぜ…!!」

「!?」

 目の前で殺気が膨れ上がるのを、ルナはただ棒立ちで見上げてしまう。

「ルナ! この場から逃げろ!! まずは身の安全の確保をっ…!?」

 すぐ耳元で叫ぶクロフクの声と、息を呑む気配、クッションのようなふくよかな手で身体を押しのけられたのがひとごとみたいに理解できた。
 そうしてハッと我に返った時、背後の殺気と殺気のぶつかり合いを振り返ることもなきまま、目の前にでかい影(カゲ)が現れて、この身ごと意識をさらっていったのを理解した時には、事態はおよそ思いも寄らないものへと急転直下していた…!

                             ※次回に続く…!

『メタル・キッズ・アーミー』  ‐第1話‐ ♯4 

       ‐Metal×Kids×Army‐ 
      『メタル・キッズ・アーミー』 

  ‐第1話‐  ♯4 



〝研究所〟と一口に言っても、そこはまだ手つかずの山林原野を含めて、航空写真の一枚くらいでは納まりきらないくらいに広大で地形の入り組んだ敷地だった。
 その中をぽつぽつと主要な施設が見かけランダムに点在するのだが、結構な距離を、警備員の車は所内での速度制限を無視した猛スピードで爆走!
 速やかにふたりの小学生をこの目的地へと送ってくれた。

「おじちゃーん、ありがとー!」

 もと来た道をこれまた砂煙を上げて走り去ってゆくジープにしばし手を振って、ふたりはくるりとこの踵(きびす)を返す。
 するとその目前には、地上37階からなる巨大なビルディングがそびえていた。

 

 

 このバカみたいに広い研究所内に数ある大型施設の内のひとつだが、他の建物たち同様にやたらにでかくてゴテゴテといかつい造りのそれは、およそ街中にあるオフィスビルのような愛想や洒落(しゃれ)っけなんてものがかけらもなくした、ひどく無機質な印象を与えた。
 足下から正面玄関へとまっすぐに続く階段、その右側の植え込みの中に設置された大きな岩石のオブジェには、この施設の名称を刻み込んだ金属製のプレートがはめられている。

 そこには、
 
      『 第二特殊科目研究棟 ― M・A・L 』
 
                 と、はっきりした表記がなされていた。

 しかし誰であれお子様などとはろくに縁がなさそうなその建物に、今しも洋太と大地のふたりはこの階段を玄関までタッタと駆け上がる。
 そうしてさも当然の顔つきで進入してゆくのだった。
 大きな自動ドアをくぐったらまた迷うことなくそのまま向こう正面のエレベーターへと一階ロビーを突っ切った。
 どちらも脇目も振らずにまっすぐにだ。
 まったくこんな突如として現れた場違いなランドセル姿の小学生コンビであるが、それでも中に居合わせた人間たちは誰もが別段、これにさしたる気を払うような様子がない。
 もはやすっかりとここの日常に溶け込んでいるのだった。

「うんっ、と!」

 見かけ同じようなものが三基並んである内、一番右端のもののボタンへと大地が背伸びしてタッチする。
 そのエレベーターだけが、地下二十階、地上三十七階からなるこの研究棟、一階ロビーからある特定の階までを直(じか)に結ぶ専用機となっているのだ。
 ほどなくしてドアが開いた。
 ふたりはただちに、ぴょんっ! とこの中へと飛び乗る。
 行く先はただのひとつなので、ドアが閉まると後は何らの操作もなしにエレベーターはすぐにも上昇を開始する。
 ただちにゴガガーッと低く重たい駆動音が鳴り響き、浮遊感というよりはある種この身体を強く押さえつけられるような重圧感を受けた。
 通常のそれよりもかなり速い速度で上昇しているためだ。
 よって一階から最上階まで、実に七秒足らずで登り切った。

 …ゴガンッ!

 不意に何かにぶつかったような衝撃音と共に、現実に少々この室内が上下へと揺れる…!
 瞬間、ふたりの小学生の身体がまるごと空中に浮き上がるほどだ。

「わうったた!」

「あはっ!」

 まともなら仰天するところだが、いい加減に慣れているらしく、むしろ楽しんでいる様子か。うまくバランスを取りながら、しっかりと両足で着地!
 室内の揺れが収まるか収まらないかの内に、フライング気味に左右へと開くドアへと向けてつま先を蹴り出していた。

 ピーン…!

 到着を知らせる電子音が鳴るよりも早くにふたりともが外部へと飛び出していた。
 かくして、最終目的地へとめでたく到着――。

「ついた!」

「とうちゃーく!!」

 テンションマックスでご機嫌な洋太がいち早く飛び出していく。
 その後を急がず焦らずの大地がゆっくりとした足取りで追いかける。
 それで相棒が姿を消した角をみずからも左に折れると、そのすぐ先で洋太が誰かと向かい合っているのを見かけることとなる。
 相手は若い女性で、なおかつこのふたりが良く見知った間柄(あいだがら)であった。

「あ、なつかおねーちゃん!」 


                      ※次回に続く…!
 

 

クロフク *プレリュード* 第三話(前半)

   クロフク

 *プレリュード*

    第三話(前半)

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 ぽっかりと視界の開けた、やけに高い天井――。

 だがそこにふさわしくした豪華なシャンデリアなどはなく、がらりとした広間は調度品のたぐいがやはりどこにも見当たらない。
 ただひたすら、ひっそりと静まり返っていた。
 かろうじて床面一杯に敷き詰められた赤い絨毯(じゅうたん)にぽつぽつとだけ、かつてそれらがあった跡だとおぼしき影が、その形のままに赤黒く残っているくらいだ。
 あとそれが本来のこの床の色であったのも見て取れるが、寡黙なサングラスのクロフク(黒服)は地面からこの視線をまたどこか遠くの壁面へと向ける。
 それがある一点を見つめているらしいことをこのすぐ側(そば)からそれと察する、元クライアントにして今はこのパートナーとなる若い娘、ルナがみずからもそちらを見上げながらに言うのだった。

「…ええ! 見ての通りで何もありはしないけど、かろうじてここではあれだけが残ったの。死んだおじいさまの、肖像画ね…! それがどうかしたの?」

 真顔でただ一点を見つめるボサボサした黒髪の丸顔は何も返事を返さないが、それと壁面のこちらも物言わぬ絵の人物とを見比べる娘は、ちょっとだけ意外そうな目つきでこのクロフクの横顔をあらためて見つめるのだった。

「! …ねえ、いま思ったのだけど、ちょっとおじいさまに似てたりするのかしら、クロって? あのおじいさまの真っ白い髪を黒く塗り直してそのサングラス をかけさせたら、ちょうど今のあなたみたくなるんじゃない? あ! まさかあんたこそ血縁関係があるだなんて言うんじゃないでしょうね??」

「…いや、他人の空似(そらに)というやつだろう? 俺としてはそう願いたい。それにもっと似てるヤツを、俺は身近に知っているしな…いや、それよりももう別れは告げたのか? 次はいつ戻ってこられるかもわからないのだぞ?」

「それはもうとっくに…! ここはおじいさまの愛用品ばかりが集められたお気に入りの居場所だったの。わたしにとっても特別な場所だったのだけど、こんな ありさまじゃね? でもせめて何かひとつくらいは思い出が転がっていないかとも思ったのだけど、心のいやしい人たちにはすべてが金目の物としか映らなかっ たのだわ! でもそれなのにあの絵だけが取り残されていたのが、今となってはとっても皮肉よね…どうしたの?」

「…いや、気配が近づいてくる。あれにお別れが済んでいるのはせめてもだったな! そうして早速だが、走る準備は出来ているな?」

「…はっ? いきなり何を言って…!?」

 開かれたままの樫の大きな扉の先をこのサングラス越しにじっと見つめるクロフクは、その静かな気配にピンと張り詰めた空気が生じるのが傍目(はため)にもわかった。
 おなじくそちら目をやるルナは、はっとしてそこに現れた人影を見やる。

「あら? なに、あれって…! クロ、あんたとおんなじクロフク…よね? 仲間、なの? そうだわ、あんたたちっていつも三体ひと組で、じゃなくて三人ひと組で任務に当たるんでしょう? ねえ…!」

 返事の代わりの張り詰めた間(ま)が少女の胸の内にイヤな予感を抱かせた。
 目の前のクロフクと同じくした漆黒のフォーマルを着込んだ男は、やはりでっぷりとした大柄の図体で、おまけに二人連れだった…!
 見ている間(あいだ)にズカズカと大股でこの広間の中に入り込んでくる。
 それがろくな挨拶もなしにこのすぐ目の前までつけて、おまけ高い目線からこちらをぶしつけにジロジロと見下ろしてくる男たちの態度にまず異様な違和感を感じるルナだ。
 そして中でもこの先頭に立つ男がこれまでじぶんの見知ってきた男たちとは別物のようなイヤらしい表情で相対(あいたい)してくれてるのが、やや前屈みで 肩をすぼめ、両手を上着のポケットに突っ込んだままの、いわゆる街中にたむろするヤカラみたいなありさまに少なからずした衝撃が走る。

 え、何っ? コイツ…!?


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 言葉にしたらそんな忌避感か嫌悪感みたいなものを感じていた。
 すぐ後ろに立つ男も身なりは短髪でこざっぱりとしていたが、こちらはやたらな無表情で人形さながらの空虚な目線を投げかけてくる…!
 前と後ろでもの凄いギャップがあったが、いいや、こちらはむしろ良く見知ったはずのものだ。
 なのにそこにもおかしな違和感を感じる。
 彼女が知っている無表情とはまた別の、それこそ何か得体の知れない…?
 思わず一歩その場から後ずさるのだが、この異様な感覚とプレッシャーの大きな要因をただちに理解した。
 つまりはこのふたりの、およそあからさまに過ぎるその表情…!
 そう、しょっぱなからどちらもサングラスをしていない、ありのままの素顔をさらしてくれいるのだ。およそこれまでのクロフクにはありえないラフなスタイ ルだった。後ろのかなりイレギュラーな存在性を発揮してくれた男でさえ、その真顔にサングラスのイメージは崩すことがなかったのに。
 むしろ表情や目線を消すのに必要なアイテムなのだろう。
 本能的な危機感を覚えるが、言葉に詰まっているとやがてあちらから遠慮もなくした挨拶が掛けられてきた。
 これにまたしてもぎょっと目を見張らせる娘だ。

「よう! おふたりさんで仲良くイチャついてるところをジャマして悪いが、どっちもしばらくツラ貸してもらおうか? にしてもずいぶんと殺風景な部屋だよな? なんでこんなトコにいんの?? ははん、さてはふたりしてマジであやしいことでもしようってのか? わはは!」

「なっ…!?」

 やだっ…コイツ、ほんとにわたしが知ってるクロフクなの??

 ありえなかった。
 その存在性からモノの言いようから何から何までが!
 後ろに立つクロフクとはまた違ったイレギュラーさ加減だ。
 いっそ完全に振り切った危なさがある。
 背筋に悪寒めいものが走る娘はほんとに絶句してしまうのだった。
 だがそれをいいことに完全になめきった目線をこの身から頭上とへ差し向ける赤毛のデブは、背後の同業者(?)へといかにも慣れた口調でのたまう。

「よう、久しぶりじゃねえか、クロ? 訓練校時代はずいぶんと世話になったもんだが、お偉いエリートさまがさっぱり噂(うわさ)を聞かなくなっちまったよ な? 近頃、羽振(はぶ)りはどうよ?? あん、相変わらずムカつくポーカーフェイスを気取ってやがるようだが、そんなもんはすぐにひっぺがされることに なるぜ? ま、見ての通りでスタートは譲っちまったみたいだが…な?」

「シシド…! やはり来たか。ある程度予想はしていたが、少々、想定外のコトもあるようだな? まあいい、お前が今回のイレギュラー、言わば競合者となるのか…!」

 暗いサングラスの奥の表情はどんなものなのか、あまり再会を喜んでいるようには見えない無表情がしごく落ち着いた声音で応える。
 すとるかすかに肩をすくめさせる、シシドと呼ばれたヤクザ者みたいなそぶりのクロフクはニヤリとして含みのある言葉を吐き出す。

「あん、そう固く構えるなよ…! オレはまだお前とここで張り合うとは言ってないぜ? でかい分け前を仲良く折半(せっぱん)ってことで、うまいこと共闘だってできなくはないんだろ。何しろこの目的は一緒、なんだからな?」

「は? 目的は一緒って、あんたたち仲間なんじゃないの? だっておんなじクロフクでしょうよ?? あとあんたムカつくわね! そのふざけた態度といいなめた口の聞き方といい…! ただのチンピラじゃない!!」

 デブとデブの間に挟まれてすっかり立つ瀬がなくなった少女が金切り声を上げてみずからの存在を必死にアピールする。
 そんな間近で騒がれてはじめてこの存在を思い出したようなクロフクは、おどけたサマでまたみずからの肩をおやおやとすくめさせた。

「はん? ああそうか、いたんだよな、今回のクライアントさまってのが? てか、これがそれなのか?? ちっちゃな画像(写真)でしかデータがなかったから、ちっとも分からなかったぜ、ふ~ん…!」

「なっ、なによっ!」

 またしてもジロジロと遠慮のかけらもない視線を浴びせられて、嫌悪感以外の何ものでもない悪感情が胸の内に渦(うず)巻(ま)くルナなのだが、おまけにこの赤毛の日焼けしたデブがぬかしくさったセリフにいよいよ全身が総毛立ってしまう。
 意味深な陰りを帯びた表情は下品な笑みとしか言いようがなく、この背後の仲間に向けた言葉も品性のカケラも無くしたただの暴言だった。

「おい見ろよっ、相棒! メスだぜ、メスっ! 女ってヤツだ、この依頼人、データでは知ってたがこんなチビっこいとは思わなかったぜ? 拍子抜けだよな! でもだったらできるのかね、アレ? とりあえず女なんだから??」

「え、なっ…あれ? あれって、何よ??」

 訝(いぶか)しく背後を振り返るに、相変わらずサングラスで目線を隠したクロフクはかすかにこの肩をすくめるばかりだ。
 すると代わりに赤毛に応じて背後の無表情デブが無表情のままに応(こた)える。
 ただしこの淡々とした返事の内容には、ただちにぎょっと目を丸くする女の子だった。

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「あれ? ああ、つまりはセックスのことかい? だったらできなくはないんじゃないのか、とりあえずはメス、もとい、女なのだから…! ただこんなに小型 なのはその範疇(はんちゅう)に入るのかわからないが? でもおれたちはそんなものはしないで済むようにできているだろう? もともと生殖能力がないから 必要がないんだ。教科でもある程度の知識としか教わってないものだし、おれには興味がないな…どんなものだか見てみたい気はするが。ああ、シシド、もしか して興味があるのかい?」

「おうよ、ありありよ! ただし相手がこんなちゃちなガキじゃなかったらな! カネさえ出せばいくらでもできるって言うしよ、この世の中じゃ!!」

「だったらそれでいいんじゃないのかい? おれは遠慮しておくが、それでも後学のために見学させてもらえるなら、シシドがそれをやっているところをじっくりと見させてもらうよ…」

「かあ、見学って、おいおいやめろよっ、なんか照れちまうぜ! ダチなんだからそこは張り切って一緒にやってくんなきゃよ? 言っとくがこのオレのおごりだぜ??」

「3Pというヤツか? ますますわからないな…」

「オレもわかんねえって! つーか、さんぴーってなんだ??」

「さっ、さんっ、ぴぃっ? なっ、なっ、なっ…!? あとそれにっ、せ、せせっ、セックス、ですって? クロ、こいつら!!」

「ああ、ひどいな? 完全に中2男子の会話だ! もとい、あまり気にするな。ただの戯言(ざれごと)だ…! あのシシドというやつは性格的に多少難ありで、それでもクロフクとしての能力は高い。それよりも少々、厄介だな?」

 華奢な肩をわなわなと身震いさせて声まで上ずらせる、もはやかなり取り乱したさまのルナである。
 おなじく無表情を装っていながら内心の呆れみたいなものが顔の端々(はしばし)にうかがえるクロは、また別の意味合いの困惑もそこににじませるのだった。
 片やそのあたりを敏感に感じ取る女の子だ。
 逆立てた柳眉を片方だけいぶかしげにひそませたりもする。

「…?」

 

               ※次回に続く…!

 

                   

『メタル・キッズ・アーミー』  ‐第1話‐  ♯3

       ‐Metal×Kids×Army‐

      『メタル・キッズ・アーミー』

 

   ‐第1話‐  ♯3

 


「よいっしょ!」


 気合い一発! 重たい看板も力持ちの大地の手にかかれば、すぐさま元の状態へと立ち戻る。


「うん、それじゃいこう!」


 それを横から見届けた洋太が背後に向き直ると、この広い敷地内をぐるりと見渡しはじめる。するとほどなくやや前方を走る一台のジープを見つけて、彼はその運転手へと声を一杯にして叫ぶのだった。


「おじちゃーんっ! のっけてーっ!!」


 そんなぴょんぴょんとはね飛びながら両手を振って合図するものの、呼ばれたジープははじめ何事もないかのように視界の中を右から左へと走り続ける。
 が、これがややもすればいきなりに急停止することとなった。
 おまけそこからもの凄い勢いでこちらへとバックしてくるのだ。
 後ろ向きのままでふたりのそれこそが寸前、スレスレを四つのタイヤをきしませる急カーブ切りながらに急停車した!
 とんでもなく荒っぽい運転に、大地などはうわっと声を上げてしまう。
 ジープの巻き起こす風とタイヤとアスファルトのつんざくような不協和音にひやっとする小学生だ。
 対してそんな無茶な運転をかましてくれる運転手は中年のおじさんで、独特な渋い茶色のユニフォームを着込んだここの警備員だった。
 見てくれからしたらいかにも屈強な体格した軍隊経験者なのだが、そのやや気むずかしげなツラをした男は、このふたりの闖入者(ちんにゅうしゃ)の顔をただの一瞥(いちべつ)しただけで、すぐにしごく納得のいったさまの了解してくれる。


「おまえさんたちは、ああ、やっぱりうちの所長さんとこのお孫さんたちか! いやはやこいつは…」


  本来ならば民間に所内(一部区域は、除外)を公開する一般公開日以外には、ふたりのような民間人、ましてやお子様がいることなどありえないのだが、いい加 減にこの四季総合研究所の所長である、四季博士のお孫さんたち(厳密には、洋太は違うのだが…)として顔が広く知れ渡っている小学生たちは、完全なる例外 であった。
 それだから専用の抜け道(ルート)で出入りし、警備のスタッフにもこうして顔パスがきいてしまう。
 警備員の男はこのしたり顔したふたりの男子児童からその背後、そこのフェンスにでかでかと大穴が穿(うが)たれているのを見ると、またもや納得のいったそぶりで笑う。
 やや苦笑い気味にだが…。


「は~ん、なるほど…! さてはおまえさんたち、いつもそこから出入りしてるってわけか、まったくこそ泥みたいだが、さすがにあっちの正門使うのはダメなんだな? 関係者以外は原則立ち入り禁止って都合…」


「うん。おじちゃん、のっけて!」


 納得すると同時に少なからずや呆れた相手の言い分にも、いかにも小学生小学生した屈託のない笑顔でおねだりする洋太だ。
 ここらへん、みじんもてらいがない。
 これに苦笑いの中年警備員も面倒そうなそぶりを一切(いっさい)見せずに、そこは実にあっさりと快諾(かいだく)してくれた。


「合点! 元からそういうお触(ふ)れは出ているんだ。怪しい小学生の二人組見つけたら、迷わずこれをしかるべき場所に連行しろってな…!」


「あんがと!」


「おじさん、どうも。でも安全運転でおねがい!」

 

※前回、前々回の挿し絵で小学生の必須アイテムであるランドセルを描き忘れていることに気が付きました…不覚! 今さら描き足しています(笑)♡


 礼を言うなりにジープの後部座席に乗り込むふたりだ。
 背負っていたランドセルを胸の前に抱きかかえて、洋太は元気に行き先を指定した。


「そんじゃおじちゃん、ぼくたち『まる』に連れてってよ!」


「おうよ、『MAL』だな! わかってるって、ひとっぱしりだ。超特急で送ってやるからふたりともしっかりつかまっとけよ!!」


 言うなりして車はアクセル全開で急発進!
 後に多大な排気と砂煙とを残し、ふたりを乗せたジープは広い所内を一気に突っ走った。

 
                      ※次回に続く…!

『メタル・キッズ・アーミー』 ‐第1話‐ ♯2 

       ‐Metal×Kids×Army‐ 
      『メタル・キッズ・アーミー』 


  ‐第1話‐  ♯2 

 

 このふたりはそれこそが物心つく幼少からの大の仲良しコンビであるが、現在はつい先日、共に小学校の二年に上がったばかりで、今日はその新学期も二週目の月曜、学校が終わってからの帰り道だった。
 だが帰りとは言っても、自分たちの家とはてんで逆方向へとふたりは駆けっていたものだが…。
 今彼らが闊歩(かっぽ)しているのは、実は町の外れも外れ、通常は一般の人間などが立ち入ったりはしないような特殊な区域である。
 本来ならば、立入禁止にすら近い領域(エリア)だ。
 そもそもは大地の祖父のもとへと向かっているのだが、しかしこの場所柄(がら)が示すように、普通のおじいちゃんの家(ウチ)に孫がともだち連れて遊びに行くというのとは、ふたりはまったくにその様相を異(こと)にしていた。
 それはもう、かなりもって…!
 どのように異にしているかは、これから後すぐにもわかるだろう。
 それまで見渡す限りに何もなかった野っぱらは、これがまたしばらく行くとこの左手に何かしらした大きな建物が、幾つも見え隠れするようになる。
 そうしてまたさらには、ひたすら長いこの幹線道路に沿って、だーっと張り巡らされた頑丈で背の高い鋼鉄製フェンスでもって、その敷地と外部とをきっちり隔離されるようにもなった。
 また同時、彼らの背丈ほどにも生い茂っていた緑の草原が一気に拓(ひら)け、一遍には見渡しきれないほどのそれは灰色をした新たな景色が展開する。
 明るく燃えるような自然の草木の色から、暗いがまた別の活気に満ちた、人工世界の色へ…!
 果たして人里離れたこんな辺鄙(へんぴ)な場所で、それこそがひたすら広大な敷地面積を有する、視界を圧倒するほどの大規模な巨大施設だった。
 この圧倒的な眺望を前に、それを臨みながらに走る洋太の顔がパッと明るくなる。
 さらにスピードが増した! 



 まるでお子様が大好きな遊園地を前にでもしたかの反応だが、実はそうではない。
 たとえ洋太やこれに後から追いすがる大地の目にはそのように見えていて、またこのふたりの小学生の認識がまさにそれだったとしても、それはあくまでまったくの別モノである。
 では一体、それは何なのか?
 一見したところでは怪しくもあるそれは、もはやその存在だけでもひとつの疑問となりうる。
 が…!
 その答え、実体についてはいささかも隠すことなく、フェンスに大きく張り出された看板によってでかでかと明示されていた。まだ小学校も低学年のふたりにはよくわからなかたが、びっちりと漢字で書き連ねられたそれには――


 『千葉県 内海市(松山)北ノ原 ‐四季第一総合科学技術研究所‐ 所在地』


 ――と、記されている。
 しかるにそれだけでは何のことやらさっぱりだが、目下(もっか)、こここそが、この仲良しコンビがしゃかりきになって目指している目的地なのであった。
 高いフェンスに沿って走る洋太は、やがてこの前方に敷地内への正面玄関を認める。
 通常は関係者のみが出入りが出来るやや物々しい検問所があるそこは、現在は無人化されて誰もいないのだが、彼は目もくれずにその前を走り抜ける…!
 そうしてそこからまた少し先にまで進んだところで、洋太はようやくその足を止めた。
 背後をくるりと振り返る。

「ねえっ、大ちゃん、はやくはやくうっ!」

 遅れること一分そこそこでやっと後から追いついてくる大地に呼びかけて、みずからはすぐ傍らのフェンスに立てかけられた、一枚の大きな立て看板に両手を当てた。それは見るからふたりの背丈よりもずっと高さがあって、かなり重そうなものなのだが――。

「う~んっ……!」

 どうにかしようと踏ん張る洋太に、後から駆けつける大地も一緒になってこれに取り付く。

「う、うんっ、そおっれっ!」

 身が軽く、やたらチョコマカとすばしっこい性分の洋太と比べ、これより大柄で背丈も高い大地は体つきががっちりしているぶん、腕力のほうも強かった。それで途端にぴくりでもなかった看板がミシミシと音を立てて動き出す…! 

「よいしょっと!!」

 ふたりは一気にそれを手前へと引き倒した。
 立てかけられていたフェンスから起こされた看板は重力によりそのまま前へと、ひいては地面へと倒れるべく傾(かし)ぐのだが――。

 …ガシンッ!

 そう音を立てるとそれきり真横に倒れることもなく、地面から45度の角度でもって制止する。つまりはあらかじめにこの上側の両角が、二本の太いチェーンで背後のフェンスとしっかり繋(つな)がれていたのだ。

「よっし、入ろ!」

 これに洋太が即座、どかした看板とフェンスの間に入り込む。
 それまで大きな看板の背に隠れて分からなかったが、その隠れた後ろの部分にはちょうど子供が背を屈めて楽に出入りできるくらいのスペース、それなり大きな穴がぽっかりと空いていた。
 いわゆる隠し通路とでも言うべきものか?

※雑な絵です…! もはや雰囲気だけ♡
 

 よってこの抜け穴を利用して、まんまと研究所の敷地内に潜り込む小学生だった。それに大地もすぐさま続くが、ちよっと苦労して穴に身体をはめ込んでから、それからふと背後で傾いだままの看板を振り返った。

「カンバン、元にもどさないとねっ!」

 そうしてみずからの足下に落ちていた一本の縄を摑み上げた。先をたどると、それはこれまたフェンスの穴を通って看板本体へとつながっている。大地はその場に腰を落として縄を握り直すと、それを綱引きの要領でグイグイと引き寄せはじめた。

「よいっしょ!」

 気合い一発!
 重たい看板の力持ちの大地の手にかかれば、すぐさま元の状態へと立ち戻る。

「うん、それじゃいこう!」

 それを横から見届けた洋太が背後に向き直ると、この広い敷地内をぐるりと見渡しはじめる。するとほどなくやや前方を走る一台のジープを見つけて、彼はその運転手へと声を一杯にして叫ぶのだった。

「おじちゃーんっ! のっけてーっ!!」


                                          ※次回に続く…!

メタル・キッズ・アーミー ‐第一話‐ ♯1

※がっつり一ヶ月ぶりのブログ更新です(笑)!

 おまけにラノベの新シリーズ!!

 ま、もとはよそでやりはじめて頓挫しちゃったヤツなんですけど♪

 とりあえず先に連載していたアトランティスの魔導士と共にどちらも並行してやっていきたいです♡

 あと、前回キャラを公開した新作のラノベもできたらここでやっていきたいです♡♡

 

おおぬきたつや・著。


       ‐Metal×Kids×Army‐ 
      『メタル・キッズ・アーミー』 

 

  ‐第1話‐  ♯1 

 

◇20××年・4月・13日(月)・快晴

 千葉県 内海市 松山町 北ノ原
 午後 2時45分

 それは4月の穏やかな陽射しの降り注ぐ、ぽかぽかと暖かな一日。
 普段通りの平穏にすぎゆくとある町の外れにて、人知れずはじまった。


 千葉県 内海市―


  千葉県の南房総地域、東京湾に広く面した人口およそ20万からなる比較的大きな街である。その最も外れ、内陸部側に位置する松山町からまたさらに郊外とな る、このまままっすぐ進めばやがて房総の丘陵地帯に出るという北ノ原の、濃い緑の生い茂る広大な平野部を舞台として、物語は幕を開ける…。


 一面を広く緑に覆(おおわ)われる北ノ原の大地を、一直線に貫いて一本の太い線が、はるかに続いた。
 それは上り下りが合わせて8車線もあるようなやたらと広い舗装路であるが、地元の街からやがては遠く県外へと続くこの高速道ばりに立派な幹線道路は、しかるにそこに肝心の車両の姿などがひとつも見当たらなかった。
 ヘタな県道よりよっぽどマシな道がこれでは寂しい限りだが、今は代わりにこのど真ん中、息を弾ませながらにひた走るふたつのカゲが、ふたりの男子児童の姿があった…!
 アスファルトで硬く塗り固められた幅広の公道は、今やそこをタッタと駆けるこのふたりの児童のあたかも専用路だ。
 もとよりその少年たちにしたところで、この長い路(みち)を車が走るのを見た記憶は、さしてありはしない。
 特に、一般の車両などは。
 やがてひたすら前へ前へと突っ走る子供たちの内の一方、全力で先頭を駆け抜ける少年が、これを後から追っかけて来る影に振り返ってはそれは元気な声を発した。

「大ちゃんっ、はやくはやくうっ!」

 澄んだ青空に、やんちゃな少年のボーイソプラノが高く響き渡る。
 これにより、せかされる相手、『大ちゃん(ダイちゃん)』こと、天野 大地(7才)が、やけに先を急ぐ前の幼なじみへとやや息を切らしながらに返す。

「うーん、洋ちゃん、ちょっとまってよぉ!」

 普段からおっとりとのんびりしたがりな性格の彼は、このいつもせっかちで何でもやりたがりな相棒の『洋ちゃん(ヨウちゃん)』こと、陸海 洋太(同じく七才)には何かと振り回されがちになる。
 ちょうど、今がまさにそうだった。
 息が苦しくて仕方がない大地は、また一度ちょっと待ってと頼むのだが、やはり先を行く洋ちゃん、待ってはくれなかった。
 それどころかだ…!

「いいからっ、はやく行こうよっ、大ちゃんのおじいちゃん、ぼくらのこときっとまってるもん!」

 逆にスパートをかける猪突猛進ぶりだ。
 元気な小学生に後退の二文字はないものか。
 おかげでふたりの差が一段と広がった。

「あーん、もう、洋ちゃんはやいーっ!」


 そんな大きく音(ね)を上げながらに、仕方もなしで大地も走るスピードを上げる。
 おおらかでとかく呑気(のんき)な性分ゆえ、駆けっこなどはさして得意な分野ではないが、それでもともだちに遅れまい懸命に走った。
 何をそうまでして急ぐことがあるのかと傍目には思われるが、ダッダと勢いよく駆ける洋太はもはや1分1秒でも惜しいものらしい。
 さっきからまったくにスピードが衰えない。
 目の前で小さくなるばかりの背中に、大地はちょっと、泣きたくなった。

「ああーん! まってぇ!」

「はやくはやくうっ!!」

 対して洋太はとてもご機嫌な様子だ。
 このふたりはそれこそ物心つく幼少からの大の仲良しコンビであるが、現在はつい先日、共に小学校の二年に上がったばかりで、今日はその新学期も二週目の月曜、学校が終わってからの帰り道だった。
 だが帰りとは言っても、自分たちの家とはこれがてんで逆方向へとふたりは駆けっていたものだが…。
 今、彼らが闊歩(かっぽ)しているのは、実は町の外れも外れ、通常は一般の人間などが立ち入ったりはしないような特殊な区域である。
 本来ならば、立入禁止にすら近い領域(エリア)だ。


                      ※次回に続く…!