おおぬきたつや の ブログ玉手箱♪(はてな版)

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『ルマニア戦記』‐Lumania war record‐ (♯001)

『ルマニア戦記』‐Lumania war record‐ (♯001)

 ※ワードプレスで先行公開しているオリジナルノベルのはてな版です♡

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 Episode 1 Take 1 Part A

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 朝も早く、まだ薄暗い、更衣室。
 人影は、ぽつりとひとつだけ。
 シンと静まり返った中で、何とも言えない面持ちをして立ち尽くしている。ただ無言で、ある種の感慨にふけるかのようにみずからが目の前にしたみずからの更衣室のボックスと向かい合っていた。シャッター式の扉は開け放たれ、その中に吊される、ひとがたをした一揃えの真新しいスーツをまじまじと見つめる……!
 真顔のまだ若いのだろう青年パイロットだ。
 その口の端が、かすかにニマリとほころびかけたその瞬間、この背後ではにわかにやかましい気配が巻き起こる。大股のドタンドタンとした足音も聞こえてきた。
「……!」
 途端に鼻先の突き出た大きな口元、ムっとへの字口にして殺気立つオオカミだ。おまけにチッと小さく舌打ちして、どこかしらよそへと視線を向ける。まるで我関せずの態度で素知らぬそぶりだが、やがて入り口にのっそりと現れたでかい人影はそんなことまるでおかまいなしにズカズカと中に入り込んでは、でかくて平たい大口開けて陽気にのたまうのだった。
「ふっふふ~ん! お、おっはよう、シーサー! なんだい今日はずいぶんと早起きじゃないか? まあぼくもそうなんだけど、やっぱり待ち遠しいもんだよな? ようやく本国から送られて来た、ぼくらの専用実験機がお披露目されるんだからさ! おかげで昨日はなかなか寝付けなかったよ」
「……っ!」
 馴れ馴れしくすぐ真横に付けての挨拶にあっても、明らかに不機嫌面したオオカミ男は舌打ち混じりにそっぽを向いてくれる。対してお互いに隣り合わせのロッカーだから横に付けるのはもはや当然、この相棒の素っ気ない態度にももはや当たり前ですっかり慣れきったでかい図体のクマだ。構わずに自らのロッカーを開けるとテンションがなおのことぶち上がる。
「わお! 新品のスーツじゃないか!? 本国からやって来たアーマーと一緒に支給されてたんだ? ちゃんとしたぼくらルマニア正規軍のパイロットスーツ!!」
 また横で低い舌打ちめいたものが聞こえるのもまったく気にならないさまで太い両腕でむんずとつかみ上げた新品の軍用スーツを鼻先でしげしげと眺めては、喜々としたさまで小躍りするそれはご機嫌なクマ人間だった。
「あっはは、コレコレ! 地味でいかつい全身モスグリーン!! やっぱりコレじゃないと立派なルマニアの軍人さんとは言えないもんな? 正直、いつまであんなまっちろくて窮屈なテスパスーツを着させられるのかってうんざりしてたんだけど、汗臭いオンボロともめでたく今日でおさらばだよ!! もうどこにも見当たらないし? それじゃ早速試着しないと! あ、でもサイズが違ってたら交換とか効くのかな??」
「たくっ、知らねーよ! つーか、ぶくぶくと太った汗っかきなでかグマなら、何を着たって変わりゃしねーだろうが? くだらねえ文句は本国のヤツらに言いやがれっ……」

 

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 しごく面倒くさげな言いように、ちょっとだけ苦笑いのクマ族の青年は顔の真ん中にでんとあぐらをかいた黒くて大きな鼻頭をことさらに膨らませて、おまけはいはい!と肩をすくめてもみせる。何かと神経が図太くてお気楽な楽観主義者は他人から何を言われてもめげないのが生まれつきの性分であり、特技でもあった。
「そんなにおデブさんでもありゃしないさ! 汗っかきなのは認めるけど? それより試着試着っと……!!」
「うぜえなっ、てか、もうちょっと離れてやれよ! でかい図体で肘打ちなんて食らわされたらたまったもんじゃありゃしねえ! ん、良く見りゃそのスーツのサイズもそれって何Lなんだよ?? バケモンめっ……」
 さっさとくたびれたランニングシャツを脱ぎ捨てて新品でまだ固い厚地のスーツと格闘をはじめる相棒に、大口開けて文句をがなるオオカミ族のパイロットも仕方なしに自らのハンガーに吊されたスーツに向き直る。
 通気性が絶望的に悪かった以前のテストパイロット用と見比べるに、こちらはそう悪くもないだろうと下着姿のままで着用することにする。その間も隣であくせくと悪戦苦闘しているらしいクマを横目で見やるに、あちらはパンツまで脱ぎ捨てた状態に目つきがなおのこと白けたものになるオオカミ族だった。
「おいおいっ、マッパで着るのかよ? 新品のスーツが台無しになっちまうんじゃねえのか!? 換えなんてそうそう効かないんだから、もっと大事に扱えっての!」
 もはや口からキバがむき出しでクレームがすさまじい相棒に、とことん太平楽なクマは親しげなウィンクかましていたって余裕の口ぶりだ。
「いいんだよ♪ そんなの気にしてる場合じゃないし、そっち向きのスタッフも付いてるしさ♡ そうとも、ぼくら表向きは実験機の試験運用目的だったのがどさくさで実戦配備に回されて、今じゃもうじき正式な配属先が決定するって話じゃないか? ええっと、なんて言ったっけ? こことはまた別の大陸西岸の属州で極秘裏に開発されてるって、もっぱら噂の新造戦艦!!」
「チッ、お気楽なこったな! 組み上がったばかりの実験機でいきなり実戦なんて正気の沙汰じゃありゃしねえだろうが? ま、オレさまとしては手っ取り早くてむしろ望むところだが、スーツと違って一点物の機体は壊しちまったら目も当てられないぜ? あの機械小僧が大泣きするだろ! 極秘裏に開発って巡洋艦もどこまで期待できることやら……そもそもここまで噂が流れてるってあたりで、どこらへんが極秘裏なんだよ??」
「文句が多いな! さっさと着ちゃいなよ、神経質な性格は戦場じゃいざって時の判断を鈍らせるだろ? それよりもとっととぼくらの新しいパートナーに会いに行こう! 夜中に運び込まれた機体の最終点検、おやっさんたちが夜通しやってくれたんだ。その労もねぎらってのお披露目式で、この格納庫の前に集合なんだってさ……あ、ほら、見なよ、ピッタリだ! あっはは!!」

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 みずからが苦労して着込んだ真新しいパイロットスーツを屈託のない笑みで示すクマに、それを何食わぬさまで一瞥(いちべつ)するオオカミは手早く着こなしたスーツ姿でこちらも応じる。心なしかその口元が緩んでいるようだった。
「へっ、オレだってピッタリだよ! お披露目ったってすぐに緊急発進だ! 浮かれてやがるヒマはないぜ?」
「ああ、ま、サイレン鳴ってたもんな? 今いるのは遠征から戻ってきた一番隊と補助のヤツらだけで、あとはみんな仲良くオシャカなんだっけ? ならぼくらが出るしかないよな♡ ちょっとワクワクしてきたよ!」
「遊びじゃねえだろ! もっとシャキっとしやがれよ!! まだ寝ぼけてるんなら先に行ってるぜ!」
「ああん待ちなよ! ほとんにせっかちだな♡ そんなんで戦場突っ走って結果、迷子になっても知らないよ?」
「やかましいぜっ!!」
 いざ戦支度を整えて、我らが戦場に向かわんとするデコボコの新人パイロットコンビだった。

 かくしてこれより長い戦いの歴史がはじまる……!