近未来西遊記・はじまりの章・シーン④
はじまりの章・シーン4
カワサキの惨劇…!
かつてあったというその悲劇を、少年は教科書の中でしか知ることが無かった。ほぼ同年代の仲間のふたりもそうだ。それがじぶんたちに浅からぬ関係があったのだとしても、そんなこと知るよしもありはしないのだから。
ここいらは再開発予定地区なのだからちょっとくらい荒っぽいことをしも大丈夫だ!といつもの軽口叩く大デブの巨漢がえいと力ませかに壁をぶちこわして乗り込んだ先で、すぐさま出迎えたのは激しい銃撃の嵐だった。
待ち伏せされていた!?
驚きもつかの間、目の前に立ちはだかるでかい背中が微動だにせずにそれを受け止めるのを、ちょっとだけ怪訝に見つめる悟空だった。
「! …あれ、せんぱい、ひょっとしておれらの盾になってくれてたりする?」
良く見慣れた光景に、今ではすっかりブタのバケモノと化したかつての中学の先輩の、あの面倒見の良かった部活の主将時代の影を見出したりする。するとすぐ隣に控えるカッパかトリのばけもの然としたこれも中学の元先輩が冷めた言葉を地べたに吐いた。
「はっ…何を今さら? それがあいつのお役目だろう?? 全身が贅肉だらけで人並み外れて頑丈なんだ、そもそもあんなデブなんだから逃げ場もありゃしない! たとえ傷ついてもすぐに回復しちまうんだからな。だが俺やおまえはそういかない。ありがたく盾にしてやりゃいいんだよ」
「…! それってあんまり気分がよくないんすけど? だったら!」
ざっと駆けだして仁王立ちする大ブタ、猪八戒の脇から躍り出た。目の前には席の乱れた宴席のそこかしこに黒服の男たちが殺気立つのが見てとれる。
腰の得物を利き手に取り出し虚空に突き立てた。
あえて悪党呼ばわりはしなかった。
もう大義名分を唱えて自分をあざむくことに疲れていた少年、見てくれサルの執行官だ。
「成敗させてもらうぜ! 悪く思うなよっ…」
小銃を持った人間ごときにはなすすべがないほどに能力の逸脱したバケモノ、世界の管理者たるAI(人工知能)の申し子たちだ。瞬く間に形成は逆転、あたりは血の海と化していた。口の中にイヤな味が広がる思いで、背後で上がった悲鳴を聞きとがめる。
「…せんぱいっ、八戒! 遊びはなしだといったはずだぜ!?」
「ぶっ…あそんじゃいないぜ? おめえのとりこぼしを片付けてるだけだ! それ♡」
血まみれでもだえるひとがたの頸椎をなでるかにしてあらぬ方向にへし折るブタづらだ。確かに手加減はしたが、これではむしろ苦しめただけだろうと口の中の苦みが一層に広がる。長身のカッパもどきは視界の外で手早く死体を量産しているに違いない。そのほうがまだマシかも知れない。だったらこちらもさっさとケリをつける!
そう決心して鋼鉄の棍棒を振り上げた先に、おそらくは最後の人影が立ち尽くしていた。