近未来西遊記・はじまりの章・シーン③
近未来西遊記・はじまりの章・シーン③
もう梅雨が近いのに、不意に冷たく乾いた風が吹き抜ける…!
夕方、西の空がオレンジに染まるのが良く見渡せる、とある雑居ビルの屋上だ。
そこにいつものように三人で息をひそめてその時が来るのを待つ。
タイミングは手元の端末(スマホ)が教えてくれる。
その暗い画面の中にある標的、場所、状況などの指示を冷めた表情で眺める少年は、小柄なその身を血のように赤い衣装に包んでいた。
「……っ」
やがて視線を画面から上げると、何を言うでも無くてただ西の空をまぶしげに眺める。
かすかなため息をついたのかも知れない。
するとそのすぐ背後、大柄で恰幅の良くした体格の全身これまたド派手な真っ黄色な衣装で包んだ大男、もとい巨漢の人間とは思えないような見てくれの何者かが口を開いた。
人の言葉を解するとは思えないよなうブタづらがいかにもつまらなそうに小柄な少年の背中に問う。
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「どうなんだ? 標的、この近くにいるんだろ。かったるいからさっさとやっちまえばいい…!」
「…まだだよ。わかってるだろ、やるコトはいつもと変わらない、おんなじなんだから…!」
おなじようにつまらなそうな口調で答える少年に、ブタのバケモノのみたいなデブの人間もどきはこの顔の真ん中ででんとあぐらをかいたでかい鼻先をフンとひくつかせる。するとその隣で、やはり気分のよさげでない何者か、こちらは長身でほっそりとした見てくれながら、顔を見ればブタもどきと負けず劣らずの人間離れした面相の怪人が言葉を発する。
「ターゲットは向かいのビルにいるんだろ? いつも通りの過激派だかテロリストどもだかが? 全員殺してはいおしまいなんだから、いつも通りには変わらないな…なら、毎度毎度お決まりの考えなしの馬鹿力の正面突破でいいんだな、悟空?」
「…………」
問われる少年は答えない。
心なしかその表情、口元が険しかったか…?
代わりにその横のデブのブタづらがでかい肩をすくめながら揶揄した言葉を真横に返す。
「ぶっふ、どうやらおれらのリーダーさまはご気分がよろしくないんだと! なにが気に入らないのかしらねえがよ? それよかおいカッパ、考えなしの馬鹿力ってなこのおれのことか? やる気のねえスカシにいわれたくねえんだけど??」
「はっ、他に誰がいるんだよ? ブタっ鼻! あとちゃんと沙悟浄って呼べ。俺は正直気に入ってはいないんだが、カッパ呼ばわりは御免被るからな? あいにくハゲてもいなければ頭にサラも載せちゃいないんだ。お前みたいな見るからにブタづらならまだしもよ…」
「ぶっ、ふふん! 言ってくれるよな? このいつまでもイケメン気取りのスカシ野郎が! 今のてめえのツラ鏡で見たことあんのか? 女をとっかえひっかえしていたかつてのイケメンさまがどこへやら、まだこのおれのほうが愛嬌があるってもんだろうにっ…!」
背後でにわかに殺気立つのに厳しい目線で振り返る少年だ。
「やめろよっ、もうじきカウントダウンに入るんだから! いつも通りのフォーメーションで、突入口を開いたら即座に任務遂行だ…遊びはなしだぜ、せんぱい?」
「せんぱい? ぶぶっ、ぷ、聞いたか、先輩だってよ! コイツ、いつまで昔を引っ張ってるんだか、いい加減に忘れちまえってのによ! これから血なまぐさくなるってのに、女々しいのはかんべんしてほしいぜ、なあ、リーダーさまよ?」
「たくっ…もう世間一般で言われるほどにガキの身分じゃないんだ、割り切らないと任務に差し支えるだろう? だが言ってること一理はあるよな、おいブタっ…じゃなくて八戒、おまえやるときはこの俺から離れたところでやれよ? でないと返り血が飛び散って衣装が汚れちまう、気分が悪いったらありゃしねえ!」
「ぶん、おれはおまえたちとちがって素手のゲンコだから、血が出るのは仕方ねえだろ? 頭だろうが腹だろうが潰せばみんな血反吐をぶちまけるんだからよ…!」
「やめろよっ! カウントダウンがはじまった…!!」
険しい視線を正面へと差し向ける少年に、背後のでかい人影も黙ってそちらへと向き直る。
かつてとてつもない惨劇が繰り広げられたという寂れた街の一角で、また新たなる惨劇がはじまろうとしていた。