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クロフク*プレリュード*第四話

   クロフク

 *プレリュード*

    第四話




 予備能力、発動…!

 その瞬間、すべての時間が止まった――。

 またその直後、すべての事態が一変していた…!!


 悲鳴のひとつと上げることなく忽然(こつぜん)とその姿を消した、みずからのパートナー、ルナの気配を求めて虚空を呆然と見つめるクロフクだ。
 一瞬、この目の端(はし)でかすかに捉えたのは、助けを求めることもできずにただひたすらな驚きに見開かれた大粒の瞳、だったものか…?

「くっ…これは!?」

「へっ…!!」

 みずからの正面へとサングラス越しの厳しい目線をやると、そこにはこれもまたただひとりその場に残っていた赤毛のヤクザ、もとい、クロフクが、ニマリ…!
 その表情にしてやったりと言わんばかりの笑みを色濃く浮かべる。
 もうひとり、このすぐ隣りにいたはずのどこか存在感の希薄な相棒は、今はその跡形もなくやはり忽然とこの姿を消し去っていた。
 とは言えどもサイズとしてはかなりいかつい肥満体の黒服男だ。
 まるで手品のようだが、この異常事態、その原因のありかはもはや明らかだった。

 消えてしまったみずからのパートナーの存在もまたおなじくして…!


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「ゆくぜっ! 相棒!!」

「…!」

 やや前のめり気味のぬかりのないファイティングポーズで闘いの始まりを告げる日焼け面(づら)のクロフクに、対照的な白いもち肌のクロフクが無言で応じる。

 それは阿吽の呼吸(あうん の こきゅう)とでも言ったものか? 

 赤毛の男が大股でゆっくりと踏み出した利き足が地面に付くかいなか、およそ不意のタイミングで、白い影がそれまでののほほんとした態度からは想像すらつかない劇的な行動に打って出るのだ!

 〝予備能力〟、発動!!

「んんっ…――フラッシュ・ダッシュ――!!」
 
「むっ…逃げろっ、ルナ!」

「えっ、クロ? きゃっ、なにっ…あ!?」

 正面でやる気もまんまんのでかい殺気を放ってにじり寄る赤毛に、この白いデブまでがただならぬ違和感をその身にまとわせるのを本能的に察知!
 これを即座に危険と断じて傍らのパートナー(ルナ)をその場から避難させるべく華奢な細身を突き飛ばした刹那、ただ一瞬この目を離したスキに、無表情なクロフクはでかい図体をフッと空気の中に溶け込ませる…。

 …消えた!?

 衝撃が走る。

 音と気配は後からこの身の周りに襲来したが、そちらに対応すべく反応しかけた身体がただちに真正面からの殺気に射すくめられる! 
 結果、反応が遅れた。
 おまけ相手の動きは目で追えるどころかまるで瞬間移動のそれだ。
 このすぐ背後に出現したと覚しき気配はまた直後には左手、突き飛ばしたはずのルナをまんまとかっさらって目の前から三度(みたび)の消滅…!
 もとい、正面に立ちはだかるクロフクの今やはるか背後を遁走(とんそう)!?
 手持ちの飛道具で対応可能な有効射程を瞬く間(またたく ま)にと抜き去っていく。
 いいや、もとよりこの間に立ちはだかる、あからさまな殺気を立ち上らせるクロフクがそれを許さなかった。

 やられた…!

 内心で素直に認めて、かすかな舌打ちが口の端から漏れるクロだ。
 今はただ無言で正面の同業者、今は商売敵となるクロフクと睨み合う。
 日焼けした赤毛の男はその口もとの笑みを嫌味なほどに濃くゆがめる。
 
 冷たい沈黙が場を満たした――。

              ※次回に続く…!