『メタル・キッズ・アーミー』 ‐第1話‐ ♯6
‐Metal×Kids×Army‐
『メタル・キッズ・アーミー』
‐第1話‐ ♯6
およそ小学生などにはふさわしくもないメカニカルな雰囲気のここは、俗に『C・R』、コントロール・ルームの名称で呼ばれるこの最上階でも最大規模のフロアだ。
その名のとおりで大型管制・統御室なのだが、現時点ではまだこれと言った運用はされていない。人影もまばらで、今のところはこのごく一部が試験的に稼働しているのみだった。
つまりはこの『第二特殊研究棟』、ひと呼んで『マル(M・A・L=Metal・Armor・Laboratory)』自体がまだ新しい施設なのであり、このコントロール・ルーム全体が本格的に動き出すのはもう少し先のこととなる予定だという。
そしてその手前側、各種無数のモニターと計器らしきで埋め尽くされた大型の操作盤、子供からすればそれこそ機械の壁と向き合っているあるひとりの若い男へと、洋太は迷わずまっすぐに走り寄る。
「ヤッホー、はるしにいちゃんっ!」
そう元気に呼びかけるに、それまで楽な姿勢で椅子にもたれて適当に手もとのキーボードを叩いていた男は、その顔をつとみずからの真横へと巡らせる。
それでよく見知った小学生のランドセル姿を見かけると、軽く右手を上げながらに応えるのだった。
「…おう! なんだ、早かったなあ、おまけにやる気まんまんじゃないか? あ、でもうちの親父さまはまだこっちにゃ来ちゃいないぞ?」
ワンパク小僧に、はるし、と呼ばれたこの彼もまた四季博士の実の子息で、夏香にしてみれば三つ違いの兄となる。
ちなみ、漢字にすれば、『春志』となった。
背丈はまあまあ高いほうだし、研究所のアイドル的存在となる才色兼備の夏香の兄というだけあって、良く見ればこの顔も体つきもそれなりスマートなのだが、いかんせん日頃からやたらとお気楽で無責任な態度を通しているせいだろうか、あまりパッとした印象を与えない。
言えば、可も無く、不可も無く、と言ったものか?
この春志という男は。
しかしすこぶるお気楽で陽気な性格が甥(おい)の大地や洋太には好かれていたし、当の本人もそれでよしと楽に構えているのだからいいのかも知れないが、妹からしてみればもっとしっかりしてほしいと小言のひとつもいいたくはなった。
別段、その能力がないというわけではないのだから。
とかく性格のはきはきとして何事にも前向きな彼女にしてみれば、やれば出来るクセにいっつもいい加減でその場を濁そうとするこの兄には、呆れるというより何かしらとても歯がゆいような感情を抱いてしまう。
時にはイラつきさえした。
ただしこの彼女が何を言ったところで、こののんびりぐうたらな兄、春志はいつでもどこでも持ち前のマイペースを押し通すのだろうが…!
ちなみ、このふたりの若い兄妹は、ここの正規の職員ではないのだが、父親からの遺伝か、生まれつき機械的・科学的方面にめっぽう強くあり、よって今は助手としてその手伝いを暇(ひま)がてら小遣い稼ぎのバイトがてらにこなしているのであった。
少なくともその身に白衣なり専用のユニフォームなりを着用しているその他のスタッフ、研究職員たちと比べると、どちらもまるっきりに普段着姿のこのふたり ではあったが、夏香にしてみれば何も知らない小学生たちを使って良からぬコトをやり出しかねないここの所長、実の父の監視という意味合いも、少なからずや あったのらしい。
一方の春志としては、逆にこの父のしでかすことが面白そうだからだなんて不謹慎ここに極まる理由がその大半を占めていたが…!
「えーっ、まだ来てないのー?」
洋太がややがっかり気味に聞き返すのに、春志は実に適当な返事を返す。
「ああ、今んとこはな? 今日は何やら朝からそこらじゅうを駆けずり回ってるみたいだからよ、あの親父は! うんでもまあ、その内にゃやって来るだろ? おまえらをここに呼び立てた張本人さまなんだから…!」
「…そうね。今ごろはきっと、この下のハンガー・デッキ、整備区画にでもいるんじゃないのかしら?」
後から大地を伴ってやって来る夏香の相槌(あいづち)に、その隣りの大地が言った。
「でもおじいちゃん、今日はぼくたちに見せたいものがあるから、なるべくはやくに来なさいって…?」
「ああ、アレだろ…!」
それに合点したさまの春志は椅子の背もたれに身体を伸ばして仰向けにした苦笑い気味の顔を、この視線を意味ありげに妹へと送る。
するとこれには夏香も何やら微妙な面持ちとなって、うなずいた。
「そうね。でも、本気なのかしら、父さん? わたし、やっぱりまだ無理だと思うんだけど…?」
「う~ん、まあなぁ? いや、つーてもよ、あそこまでガチでやっておいて今さら冗談もないもんだろうさ? 特にあの親父の突き抜けた性格からするとだな! それっこそがまるっきりの大まじめなんだろうぜ」
「ああ、そうよねぇ…! 心配だわ」
いささか呆れたふうな兄貴の言葉にあって、この彼女もついにはため息混じりとなって、困惑気味な視線を目の前のふたりの児童たちへと注ぐ。
「なにがぁ?」
そのどこかおかしな雰囲気に、洋太も大地もきょとんとしてふたりの大人たちを見上げた。
すると視線を天井へと上げてクックと苦い笑いを発しつつ、この春志はまた言うのだ。
「まあな…はは! たぶん、驚くぞ、ふたりとも、な!」
「?」
口もとのにやけた含むところがある物言いだが、さっぱりわからぬ小学生はどちらも不思議に見張ったふたつの瞳を見合せるばかりだ。
そんな彼らに、また春志がにやけた視線でもっていずこか遠くの方を示す。
「おっ…ほら、来たぞ? おまえたちがお待ちかねの人物のご到着、だ!」
「ああ、本当、噂(うわさ)をすれば…ね!」
※次回に続く…!