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クロフク 第二話 ②

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クロフク 第二話 ②

 

「あんた…ちょいちょい言ってることが矛盾してるわよね? でもいいわ! 今はあえて乗ってあげる。契約は、たった今、成立よ…!」

「そうか…では、お名前をお聞かせ願いたい…! 今この瞬間、地位や名誉は無くしたとしても、その身と自由だけは最後まで守り通そう…! おまえをこの巨大なカゴから救い出すこと、これがまず課せられた第一の使命だ!!」

「無表情でよくもそんなぬけぬけと! あんたってほんとにふざけてる。ボディガードと言うよりは、まるでナイト気取りね? ええ…望むところだわ! ならばわたしのことは、ルナ…そう呼んでちょうだい…!!」

 果たして契約は無事、成立したものか。
 うむ、と無言でうなずく大男に、だが主従ではなくパートナーとしての関係を受け入れたはずの娘、ルナはすかさずひとつの要求を申し入れた。

「あんたのことは、クロ、クロって呼べばいいのよね? そう、だったら、ねえ、クロ! まずはそのジャマで目障りなサングラス、取ってくれない? あんたたち黒服ってただでさえ無表情なのにそれが目線をさえぎって、もはやさっぱり何を考えてるかわからないじゃない? 意志の疎通が困難だわ! そもそもこのレディを前に対等な関係を望むなら、まずはその素顔ぐらい見せるのがスジってものでしょう? みずからの名を名乗るのと同等なくらいに、ね??」

 それこそは当然の権利だとばかりにした主張を、だが当の黒服の大男はここではじめてこの無表情がかすかに動じることとなる。
 それは思いのほか困惑したさまで、ふたつの太い眉の根を寄せるのだった。
 ぎこちない動きで右手をみずからの色メガネにやりかけるが、触れるまでいかない。加えて明らかに渋々とした調子で声色にもそれが出ていた。

「む…このサングラスを、か? いや、だがしかしこれはこの職務と立場上、欠くべからざる必須のアイテムであり、またその現実的有用性や機能性からも勤務中は取ることなど許されるべきではないはずものだが…! そもそも第一に、この俺の素顔などはどうでもいいことだろう?」

「は? 良くないわよ! むしろ素顔も知らないで仲間を名乗ろうってのがどうかしてるわ! なにをもったいつけることがあるのよっ、さっさと外しなさい! ほら!! でなければこのわたしの背後に気安く立つことなど許さなくてよ? 対等の関係を築こうだなんてとんだお笑い草だわっ、さあ、でないとその地味な黒服も残らずひんむいてやるわよっ!! 無様な肥満体をさらしたくなければ、とっとと顔を見せなさい、このクロブタ!!!」

 SMの女王様の罵倒さながらしたキンキンのソプラノで鼻っ面を叩かれて、さしもの無表情がやや引きつり加減の大男は内心でたじろいでいるのが目に見えてわかるほどだ。
 一瞬、返す言葉が見事に裏返っていた。
 見上げる少女に促されるまま、ほんとに渋々でサングラスの縁(ふち)に手をかける。せめてこれまでの威厳を保つべくか、おごそかな口ぶりで言いながらもおもむろにゆっくりとこれを顔面から引きはがしてゆくのだが…!
 一文字に結んだ口もとがやや不満げに歪んでいたが、下から見上げる視線になぶられて心なしか引きつったりもする。

「くろぶた!? むうっ…! んん、おまえのその物言いはおよそ対等な立場などとはかけ離れているのではないのか? だが、確かに一理はある、ならば今この一時(いっとき)だけ外すことにしよう。ただし、勤務中はおれたちクロフクには必須の商売道具なのだから、どうこう言われる筋合いはない。今だけだぞ…?」

「いいから! …はあん?」 

「……!?」

 ぶしつけな目線で頭からこの足下までを値踏みでもするかにねめ回す少女を前に、いい年齢(トシ)のでかい黒服男が立ち位置の定まらないさまでギクシャクと蹈鞴(たたら)を踏んでいた。このままでは持ち前のポーカーフェイスを維持するのがちょっと困難に思えて、そそくさと利き手の色メガネをこの目元に戻す。
 おほん、とわざとらしげな咳払いして普段の調子を取り戻すべく勤めるが、すぐに素顔を隠したことにあからさま不満げな目つきの娘が、おまけ冷やかし混じりにしたセリフにはこの肩のあたりにギクリと動揺が走った。

 

 

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「…もう、そんな慌てて隠すこともないでしょうに? まあ、いま見たとこじゃそこそこってものかしらね…! イケメンとは言わないまでも、思ってたほどのブサイクでもありゃしないわ! それだったらさっきのナイトさま気取りの発言を笑い飛ばしてやったところなのに、残念よね。とにかく安心なさい、嫌いな顔じゃないから! これが万一、生理的に受け付けないようなにやけ面(づら)なら即刻この場でさっきの契約を解消してやったのだけど…!!」

「くっ…理不尽だな? 生まれ持った顔の出来や不出来で契約を無残に打ち切られるなどとは…! 少なくともこの俺は相手の見てくれの善し悪しでクライアントを選り好みなどしたことはないものだぞ?」

「当たり前でしょう! そっちこそ相手のなりなんてどうこう言えた見てくれなの? さっきは自分のこといかにも人並みだなんて言ってたけど、世間一般の並とはかけ離れてること、世間から隔離された生活を送っていたこのわたしにだってわかるもの! あんたたち黒服、クロフクって言うの…?」

 怯んだところをずけずけと責め立てながら、ちょっと怪訝なさまであらためて相手を見上げて、この言葉尻が微妙に濁ったりもする。
 これに見下ろす肥満の大男はいかつい肩をどちらも大きくすくめておいて、そのいわくありげな言葉尻を平然としたさまで受けるのだ。

「まあ、そのあたりに関しては返す言葉もないな? しっかりと的を射ている。世間離れしたお嬢さまと思いきや、なかなかに手強いようだ…。ただしこの俺たちの存在、この核心を突くのはそれなりの覚悟を持ってからすることだ。ある種の触れるべからずしたブラックボックスだからな、そのあたりは? 他言は無用だし、言ったところで理解はされまい…!」

「知ってるわよ! 理解されないのはお互いさまっ…わたしも似たようなものだしね? そう、だったらこのわたしのことは、きちんと把握しているの?」

「ここの使用人たちがうわさ程度に語っていたことぐらいにはだな…? これまたブラックボックスというわけだ。あのジジイもそのへんは固く口を閉ざしたままだった。死人は口を聞けないからなおさらだな…! 真実は永遠の闇に、もとい、それにつきただの一言でズバリと言い表せるのだが、常人からしてみたらもういっそのこと都市伝説にさえ近いだろう? おまえの、それは??」

「ふふ…! まあ、そんなところよね? いいじゃない、美女と野獣ならぬ、現代版のおとぎ話みたいで…これってきっといいコンビだわ!」

 どこか自嘲気味にくっくと含み笑いしながらのあいづちを、濃い色メガネで目元を隠しながらも怪訝に見返すのがわかる黒服、もといクロフクだ。
 図太い首に乗っかった丸顔が大げさ右に傾ぐ…!
 それをまたまっすぐに立て直して、意を得たとばかり大きくうなずいた。

美女と野獣? 美女というあたりに少なからぬ引っかかりを覚えるが…それでもペアではないのだな? ましてやカップルなどでもなく…あくまで対等なパートナーシップに乗っ取った、コンビ、か…なるほど、いい表現だ!」

「どういたしまて! それで、これからどうするの? わたしを助け出してくれるのでしょう、この、おじいさまが造ってくれた、このわたしのためだけの、それは大きな鳥かごから??」

「それをこれから話し合いたい…無論、この俺としてのプランはあるのだが、本人の承諾が必要だ。おまえにしてみれば故郷とも言うべき生まれ育ったこの場から、場合によっては永遠の決別を迫られることになるのだから…」

「そう…! まあ、それはいいのだけど、おまえ…なの?」

 かすかにうつむいてから、またどこか怪訝に見上げる娘の瞳には少なからずした不満と責めるような色合いが見て取れる。
 無表情なクロフクの太い眉が、かすかにぴくと反応する。
 言葉にせずとも、意志の疎通が図られていた。
 確かにいいコンビなのかも知れない。

「む、んん、そうか…! おまえ、ではなく、ルナ…だったな? ああ、ならば、ルナ、まずはおまえの意志の確認と決定が必要だ!」

「はあ、結局、おまえ、なんじゃない…! このバカクロ!!」

「む、んん…!?」

 ちょっと不機嫌なさまで口を尖らせる娘が、そのくせ楽しげな笑みをその表情にたたえているのを不可思議に見てしまうクロフクのクロだった。
 どんよりした曇り空にかすかに日の光が差し込む。
 それが窓越しに立ち尽くすふたりの姿を幻想的に照らした。
 かくしてちょっとだけ互いを理解しあえたこの即席のデコボココンビのもとに、この時、また新たなる気配が近づきつつあった…!

 

       ※次回に続く…!