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おおぬきたつや の ブログ玉手箱♪(はてな版)

自称・マルチクリエイター おおぬきたつや のブログです♪

アトランティスの魔導士〈0〉 プロローグ ♯4

 いやあ、関東は大して降らなかったみたいですね、雪?

 問題なく帰って来られて一安心です♡

 

  プロローグ ♯4


「ふふっ、そうかい。いらないお世話ってやつか…! ああ、それにしてももったいないなぁ、トレードマークのせっかく可愛らしいマンマル頭ちゃんなのに? ちょっと寂しいよ。うんでもそうは言ってもさ、一人前の大人と認められるには、ほんとはまだあともう10回くらい、お誕生日をお祝いしてもらわなくちゃいけないよねっ…?」

 そんなさりげなくしたもっともらしい言い聞かせにも、ちびっ子大将はするとまたもやしての負けん気も強くした即答だ。

「んなことねーよっ! おれ、もうとっくにいちにんまえだもんっ、じいちゃんのおシゴトだってリッパに手伝えるもんさっ!」

「そんな…いいや、無理を言ったらいけないよ? ハイクさんの『仕事』がどんなものかはそれなりわかっているんだろう? 今日だってそうだけど、まだアトラちゃんなんかが細い首を突っ込めるようなものじゃ、間違ってもありはしないはずさ。こればかりは、ね…」

「むううっ! わあってるよっ、でもさでもさ、おれ、はやく強くなんなきゃいけないんだから、ぜったいのぜえったいにっ…!!」

 いかにやんちゃであろうとも、ただ小生意気にませているばかりでは決してなし、か…?

 やせっぽちな胸に秘めた、自分なり一途(いちず)で懸命なる想いを吐露する児童だった。
 その、実にひたむきなるさま…!
 間近に対する青年はあまりに哀しく、またこの上なしに愛おしくして見つめる。

「アトラちゃん…! 健気(けなげ)だね。うん。でもその気持ちだけで今はもう十分なんだと思うよ。おじいさんにとっては。だってきみが無事元気に育ってくれることが、あのひとにとっての何よりの生き甲斐なんだと、思うからさ」

 だがしみじみと諭すまさにその半ば。

 これまでずっと穏やかに違いなかったはずその顔つきが、どうしたことか不意にしてひどく険しいものとなっていた。

「そうだからね、アトラちゃ…ん、え、なにっ? いま…っ!」

 つい先ほどからまるで何かを真似るかの奇妙なしぐさで、まだ小振りな己の両の拳(こぶし)に生えそろう短い十指を一心に開いたり閉じたり繰り返すアトラではある。

 そしてこの、見かけおかしな動作の何たるかをそれと理解するシュウながらもだ。

 

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 そのすぐ背後、何かしらキラキラした輝きめいたものが奇怪にうごめくのまでも視界の隅に刹那、捉えたかに覚えて、驚きにハッと見開いた眼(まなこ)を向けたのだった。
 普段から何かにつけひとより目敏くあった彼なればこそ。
 それ以外にも何やら形にはならぬが、不可解な気配のごときものがそちらでまたかすかにチラつくのを察知していた。
 しかしそれらはこれとはっきり確かめまで至らず、瞬く間にとさっぱり消え失せる。

 果たして、ただの幻覚(まぼろし)だったものか――。

 不穏な疑念に独り身を固くするのを、一方で雰囲気的に妙な間として感じる坊主頭は、両手のグゥパァやめるといつしか真正面で強張(こわば)った顔つきを不思議そうに眺める。

「ん、んっと…あ、どうかしたのか、シュウあんちゃん?」

「…はっ! い、いやっ、まさかね…ううん! ごめん、なんでもないんだ。きっとただの思い過ごしさ。だってそう、アトラちゃんはまだ十歳、なんだものねっ…」

「?」

 言葉のわり、顔つきやけに困惑したさまで考え込んでいるシュウだったろう。

 アトラは初め、はてなっと目をパチクリさせるが、それでさして気に留めるでもなし。
 代わり、何気ない目線を右手の柱のオンボロ掛け時計に送る。
 そうしてひとに問いかけるというよりは、自らに自問するような口振りをしてワンパク小僧にはまず珍しいこと、神妙な声音を発していた。
 それにはしばらく深刻に黙りこくったきりのビジネスマンもだ。
 どうにか気を取り直し、何泊か遅れで適当な相槌(あいづち)を返してくれる。

「…じいちゃん、やっぱしちょっとおそいな。でもさっ、もうじき帰ってくるのかな?」

「ん…ああ、たぶんね。さて、と! それじゃぼくもいつまでこんなのんびり油を売っていられやしないか。こう見えてもまだ仕事の途中なんだ。ヘタに顔を合わせたばっかりどやされたりしないうちに、とっとと退散することにしよう。じゃ、お茶、ありがとう。とてもおいしかったよ!」

「え、もう帰っちゃうのか? そっか…うん、そいじゃあんちゃんまたあしたなっ!」

「うん。あ、いいやっ。明日はそう、きっとまだアトラちゃん学校があるうちにこっちには伺(うかが)うはずだから、顔を合わせることはないかも知れないけれどもね。…ん、まさかもうすっぽかしたりしちゃあだめだよ?」

 若干だけ渋めた面で念押しくれる相手に、こちら突発性登校拒否児はいささかも悪びれずにした、あっけらかんたる笑顔で返す。

「へっへ、だいじょーぶだよ。じゃね、ケーキあんがとっ! ついでに出るときシャッターきちっと閉めてってよ」

「はいはい―って、あとそう、お店もサボっちゃあダメ、なんだからねっ」

「わあってる!」

 それではと早々に席を立てば、最後まで苦笑いの相手の気配もじきに失せてなくなる。

 シャッターがしっかり閉じるのも見届けたところで、再び静けさの中に取り残されるアトラは無意識、かすかなため息ついた。
 それきり疲れたふうなぼんやりした表情(かお)で力もなく、それまでにない寂しげな言葉を漏らす。

「…ああっ! たくもう、どうしたのさっ? じいちゃん、さっさと帰ってこいようっ…!」

 くたって伸びるようもたれかかるちゃぶ台に頬杖(ほおづえ)ついて、浮かぬさまに身を縮こめる。

 それきりもうこれといって、することも思いつかず。
 ただつけっぱなしのテレビをつまらなそうに眺める彼は、しまいにはつい、うとうととなってしまう。
 眠るまいと幾度もあくびをかみ殺すものの、ひどく憂うつで緩慢な時間の流れの中だ。
 いい加減気抜けがしただるい意識などには、もはやでなす術(すべ)の一つとてなし。

「ん…っ」

 知らず捕らわれる深い闇に、心身ともただもう静かに埋没してゆくのみ、なのであった――。

 

           ※次回に続く…!